2015年の英国「LEAP試験」以降、「アレルゲンとなりうる食品はむしろ早期から少量ずつ摂取させる方が発症予防につながる」という考え方が国際的な主流となり、日本でも鶏卵の早期摂取が推奨されるようになりました。しかし2026年2月、国立成育医療研究センターは、鶏卵の早期摂取が推奨されるようになった後も、同センター救急外来における鶏卵アレルギーの受診件数に目立った減少が見られなかったとする分析結果を明らかにしました。一方、同時期に公表された名古屋大学との共同研究では、湿疹に対する早期の”強化”治療を組み合わせた場合には、卵アレルギーの発症が有意に抑制されたことも示されています。本記事では、この二つの研究が示す違いと、実際に成果が報告されている米国のピーナッツアレルギー対策との比較を整理します。
国立成育医療研究センターの分析:受診件数は減少せず
国立成育医療研究センターの救急外来を2015年から2024年の間に受診した食物アレルギー症例、約2,800件を分析した結果、全体の受診件数はこの期間ほぼ横ばいで推移する一方、鶏卵アレルギーについては早期摂取が推奨されるようになった2022年以降も、受診件数に有意な減少は確認されませんでした。研究チームは、乳幼児健診や離乳食指導の場で早期摂取を「推奨」するだけでは、実際の発症予防効果に結びついていない可能性を指摘しています(出典:日本経済新聞「卵の早期摂取、『推奨後』もアレルギー減少せず 成育医療センター」、日経メディカル)。
名古屋大学との共同研究:早期「強化」治療で卵アレルギーが有意に抑制
一方、国立成育医療研究センターが名古屋大学と共同で行った研究では、アトピー性皮膚炎のある乳児を対象に、スキンケア(湿疹治療)を強化しながら鶏卵を早期に摂取させる介入群と、通常ケアのみの群を比較したところ、3歳時点で介入群の食物アレルギー・鶏卵アレルギーの発症が有意に抑制されたと報告されています。単に「早く食べさせる」ことを推奨するだけでなく、皮膚バリア機能の管理という治療的な介入を組み合わせることが鍵となる可能性を示す結果です(出典:国立成育医療研究センター プレスリリース(2026年3月17日))。
海外との比較:米国のピーナッツ対策では実社会での効果報告も
米国では2015年のLEAP試験で、ハイリスク乳児へのピーナッツ早期摂取によりピーナッツアレルギーの発症率が約81%低下したことが示されて以降、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)の指針に基づき、米国小児科学会(AAP)が「生後4〜6か月ごろから、ピーナッツたんぱく質として週6〜7gを3回以上に分けて」摂取するという具体的な量・頻度を伴うガイドラインを普及させてきました。2025年に医学誌Pediatricsに掲載された実社会データの追跡調査「Encouraging Trends in Peanut Allergy Prevention」では、このガイドライン普及後、実際にピーナッツアレルギーの発症率に低下傾向が報告されています(出典:American Academy of Pediatrics、NIAID Addendum Guidelines)。
日本の卵と米国のピーナッツ、何が違うのか
| 項目 | 日本(鶏卵) | 米国(ピーナッツ) |
|---|---|---|
| 推奨内容 | 「摂取を遅らせない」という比較的抽象的な方針 | 開始時期・週あたりの量・回数まで具体的に規定 |
| 実施支援 | 乳幼児健診等での一般的な情報提供が中心 | ガイドラインに基づく小児科での具体的な指導 |
| 治療的介入との連携 | 湿疹治療との組み合わせは研究段階(名古屋大学等) | ハイリスク児は事前の皮膚科・アレルギー科的評価を推奨 |
| 実社会での効果検証 | 受診件数ベースでは有意な減少確認されず(2026年時点) | ガイドライン普及後に発症率低下の報告あり |
日本と米国の違いを比較すると、「早期摂取を推奨する」という方向性そのものは共通していますが、摂取量・頻度を具体的に示しているか、そして湿疹治療など他の介入と組み合わせて実施されているかという点で差があることがうかがえます。
日本への示唆
今回明らかになった国立成育医療研究センターの分析結果は、「早期摂取を推奨するだけでは不十分な可能性がある」ことを示す一方、同センターと名古屋大学の共同研究は「湿疹管理と組み合わせた治療的介入であれば効果が期待できる」ことを示しており、両者は矛盾するというより、今後の課題を補い合う関係にあるといえます。今後は、消費者庁・厚生労働省や日本小児アレルギー学会などが、より具体的な摂取量・頻度の目安や、皮膚科的なケアとの連携を含めた実践支援体制を整備していくことが求められそうです。
まとめ
2026年、国立成育医療研究センターの分析により、鶏卵アレルギーの早期摂取が推奨されるようになった後も、実際の受診件数には目立った減少が見られないことが明らかになりました。一方、同センターと名古屋大学の共同研究では、湿疹の早期強化治療を組み合わせることで卵アレルギーの発症が有意に抑制されるという結果も示されています。米国では具体的な摂取量・頻度を定めたガイドラインの普及後にピーナッツアレルギーの実社会での減少傾向が報告されており、日本でも「推奨する」だけでなく、実践を支える具体的な指導体制の整備が今後の課題といえそうです。早期摂取の進め方については自己判断せず、必ずかかりつけ医・アレルギー専門医に相談してください。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断・治療に代わるものではありません。食物アレルギーの診断・治療・除去食の実施については、必ず医師・専門医にご相談ください。
