2026年4月1日、食品表示基準が改正され、カシューナッツが食物アレルギーの義務表示対象「特定原材料」に新たに追加されました。同時にピスタチオも推奨表示品目に加わり、日本のアレルギー表示制度は大きな転換点を迎えています。海外では米国FDAがアレルゲン「閾値(しきいち)」に基づく新しい表示のあり方を検討するなど、国際的にも表示制度の見直しが進んでいます。本記事では、2026年の食品表示制度に関する最新情報を一つにまとめ、日米欧の規制比較とあわせて解説します。
日本:カシューナッツが特定原材料に追加(2026年4月1日施行)
消費者庁は2026年4月1日、食品表示基準を改正し、カシューナッツを「特定原材料」(義務表示対象品目)に追加しました。これにより義務表示品目は、えび・かに・くるみ・小麦・そば・卵・乳・落花生(ピーナッツ)・カシューナッツの9品目となりました。同時に、ウルシ科の植物でカシューナッツと交差反応が懸念されるピスタチオが「特定原材料に準ずるもの」(推奨表示)に追加され、推奨表示品目は20品目に拡大。義務・推奨をあわせた対象品目は計29品目となっています(出典:消費者庁 食物アレルギー表示に関する情報)。
義務化の背景:木の実類アレルギーの急増
消費者庁が概ね3年ごとに実施する「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」(令和6年度)によると、木の実類アレルギーの症例数比率は24.6%に達し、鶏卵(33.4%)に迫る勢いで増加しています。木の実類の内訳では、くるみが1位、カシューナッツが2位。カシューナッツはアナフィラキシー(ショック症状)を引き起こした原因食物としても上位5位以内に入っており、重篤性の観点から義務表示への格上げが決定されました。
経過措置期間と実際の表示ミスの実態
今回の改正には2026年4月1日〜2028年3月31日の2年間の経過措置期間が設けられており、この間は新旧の表示が混在する可能性があります。2028年4月1日以降は完全義務化となるため、消費者は購入のたびに原材料表示を確認する習慣が大切です。なお、施行直後の2026年1〜4月の3か月間だけで、表示ミスによる自主回収が214件報告されており(うち11件で実際に喫食による発症が確認)、制度が整っても現場の運用には課題が残っている実態も明らかになっています。外食・中食における対応の詳しい実態は、関連記事もあわせてご確認ください。
経過措置期間中は、消費者自身でも最新の回収情報を確認できます。アレルゲン表示の欠落・誤表示による食品の自主回収(リコール)は、消費者庁「食品表示リコール情報及び違反情報サイト」や消費者庁リコール情報サイトで公表されており、アレルゲン(卵・小麦・乳・落花生・木の実類など)の表示欠落を理由とする回収がほぼ毎月複数件届け出られています。いずれのサイトも新着回収情報のメール通知に対応しているため、カシューナッツを含む該当アレルギーのある家庭は、購入時の原材料表示チェックとあわせて、これらの公的な回収情報を定期的に確認しておくと安心です(出典:消費者庁 食品表示リコール情報及び違反情報サイト)。
本記事は2026年9月時点の情報です。表示制度や経過措置は改正されることがあるため、購入・喫食の際は必ず最新の食品表示と、消費者庁の公表情報をご確認ください。
米国:FDAがアレルゲン「閾値」制度への移行を検討
現在、日本の表示制度は「含む・含まない」の二択方式ですが、米国では任意で記載される「May Contain(〜が含まれる可能性があります)」といった注意喚起表示(PAL:Precautionary Allergen Labeling)に統一基準がなく、実際にはアレルゲンがほとんど含まれない製品にも表示がある一方、含有量が問題になるレベルの製品に表示がない場合もあるという課題が指摘されてきました。
これを受け、米国FDAは2026年2月18〜20日、「食物アレルゲン閾値とその潜在的応用(Food Allergen Thresholds and Their Potential Applications)」をテーマとしたバーチャル公開会合を開催し、約1,800名が参加しました。科学的根拠に基づく閾値水準を設定し、その水準を超えるリスクがある場合のみ統一的な注意書きを義務付けるという枠組みが議論されています。パブリックコメントは2026年5月19日に締め切られ(ドケット番号:FDA-2026-N-1304)、今後FDAが正式な規制方針を策定する見通しです(出典:FDA Food Allergies)。
FAOが提案する主要アレルゲンの参照用量(Reference Dose)
国連食糧農業機関(FAO)は、将来的な閾値設定の土台となりうる参照用量を科学的根拠にもとづき提案しています。
| アレルゲン | 参照用量(タンパク質換算) |
|---|---|
| ピーナッツ・牛乳・卵・ごま | 各2mg |
| くるみ・カシューナッツ・ピスタチオ・アーモンド | 各1mg |
| ヘーゼルナッツ | 3mg |
| 小麦・魚 | 各5mg |
| 甲殻類 | 200mg |
これらの数値はあくまで参照用量であり、重篤なアレルギー患者には微量でも反応が起きる場合があります。閾値制度が実装されても、個人の管理方法は必ず主治医・アレルギー専門医と相談のうえで決定することが重要です。
日本・米国・EU・カナダの表示品目数比較
| 国・地域 | 義務表示品目数 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 9品目(2026年4月〜) | 卵・乳・小麦・えび・かに・落花生・そば・くるみ・カシューナッツ。経過措置あり(2028年3月まで)、閾値制度は未導入 |
| 米国 | 9品目(Big 9) | 牛乳・卵・魚・貝・木の実・ピーナッツ・小麦・大豆・ゴマ。木の実は種類の明記が必要。閾値制度を検討中 |
| EU | 14品目 | グルテン含有穀物・甲殻類・卵・魚・落花生・大豆・乳・木の実・セロリ・からし・ゴマ・亜硫酸塩・ルーピン・軟体動物 |
| カナダ | 12品目 | EUに近い基準を採用 |
品目数だけを見ると米国・EU・カナダの方が広く見えますが、日本は品目ごとに個別列挙する方式であるのに対し、米国は「木の実(Tree nuts)」という大枠カテゴリーの中で種類を規定する方式を採るなど、制度設計の思想そのものが異なる点に注意が必要です。日本は今後も、実態調査の結果を踏まえて品目を追加していく方針であり、閾値に基づく表示制度の導入については消費者庁・食品安全委員会が海外動向を参考にしながら検討を続けている段階です。
専門家・公的機関の見解:国際基準はどう動いたか(2026年7月更新)
2026年7月、FAO/WHO合同のコーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)第49回会合(CAC49)は、リスクに基づく注意喚起表示(PAL:Precautionary Allergen Labeling)に関する国際的なガイドラインを正式に採択しました。今回の採択では、1985年以来の国際基準(CXS 1-1985)を更新する形で、アレルゲンごとの「参照用量(Reference Dose)」を科学的根拠に基づき定め、この水準を上回るおそれがある場合に限って「本製品には○○が含まれる可能性があります」といった注意喚起表示を行うという枠組みが国際標準として位置づけられました。小麦についても、大麦・ライ麦など他のグルテン含有穀物と切り離し、グルテンとして4.0mgという個別の参照用量が設定されています(出典:FAO/WHO Codex Alimentarius Commission、WHO)。
一方、米国FDAが2026年2月に開催した閾値制度に関する公開会合(ドケット番号FDA-2026-N-1304)では、2026年5月19日の締め切りまでに405件のパブリックコメントが寄せられ、半数以上を消費者からの反対意見が占め、患者団体3団体も慎重な姿勢を示した一方、食品業界・団体はおおむね賛成の立場を取るなど、意見が割れていることが明らかになっています。FDAは会合で得られた論点を年内に取りまとめる見通しですが、正式な規制方針の策定にはなお時間を要する段階です(出典:Regulations.gov(FDA-2026-N-1304))。国際的にはコーデックスが先行して閾値ベースの表示制度の枠組みを採択した形となっており、日本の消費者庁・食品安全委員会が今後の制度検討を行ううえでも、この国際基準の動向が参考材料の一つになるとみられます。
まとめ
2026年は、国内でカシューナッツの義務表示化とピスタチオの推奨表示追加が施行された一方、海外ではFDAがアレルゲン閾値という新しい規制の枠組みを模索するなど、食物アレルギー表示制度が大きく動いた年となりました。経過措置期間中は新旧表示が混在するため、消費者は購入のたびに原材料表示を確認することが引き続き重要です。今後も消費者庁・FDA双方の動向を継続的にチェックしていきましょう。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断・治療に代わるものではありません。食物アレルギーの診断・治療・除去食の実施については、必ず医師・専門医にご相談ください。
この記事を書いた人
谷口 正純(食品アレルギー情報サイト運営者)。自身がそばアレルギーの当事者であり、子どもの卵・乳アレルギーの診断をきっかけに2015年頃から食物アレルギーの情報収集を続ける当事者・保護者です。アレルギー専門医への10年以上の通院、除去食・代替食の管理、保育園・学校の給食対応など、日常生活の実体験にもとづき、消費者庁・厚生労働省・日本アレルギー学会・国立成育医療研究センター等の一次情報を参照して記事を作成しています。本サイトは医療情報サイトではなく、診断・治療の判断は必ずアレルギー専門医にご相談ください。詳しくは運営者情報をご覧ください。
