「子どもの食物アレルギーについて、次に何を研究してほしいか」――その優先順位を、患者本人や家族、医療従事者が投票で決める取り組みが英国で行われ、2026年7月6日に「トップ10」が公表されました。ブリストル大学の研究チームが主導した本調査は、国際的な患者参加型研究手法「James Lind Alliance(JLA)Priority Setting Partnership」の手法に基づくもので、成果は医学誌Clinical & Experimental Allergyにオープンアクセスで掲載されています。本記事では、英国での取り組みの内容と、日本における研究課題の決め方との違いを整理します。
英国の取り組み:患者・家族・医療者が一緒に研究課題を選ぶ「JLA」方式
この調査を主導したのは、ブリストル大学の「Centre for Applied Excellence in Skin and Allergy Research(CAESAR)」で、英国国立衛生研究研究機構(NIHR)の助成を受け、Allergy UK、Anaphylaxis UK、Natasha’s Foundation(旧Natasha Allergy Research Foundation)、Eczema Outreach Supportといった患者支援団体の協力のもとで実施されました。プロセスは次のように段階を踏んでいます。
- 第1段階:900人以上から2,500件を超える「知りたいこと」を全国調査で募集
- 第2段階:既存研究で未解明の設問を50件に絞り込み、1,000人以上が回答する第2回調査で25件に整理
- 第3段階:食物アレルギー当事者・保護者・医療従事者29人によるワークショップで最終的に10件の優先課題に合意
単に専門家だけで課題を決めるのではなく、実際に食物アレルギーとともに生活する子どもや家族の声を出発点にしている点が特徴です(出典:University of Bristol「Top 10 priorities to shape the future of UK childhood food allergy research」2026年7月6日、Parslow R. et al.「Research priorities for children with food allergy: A UK James Lind Alliance Priority Setting Partnership」Clinical & Experimental Allergy, 2026)。
決定された研究優先順位トップ10
| 順位 | テーマ | 具体的な問い(要約) |
|---|---|---|
| 1 | 予防 | 子どもの食物アレルギーを防ぐ最も安全で効果的・費用対効果の高い方法は何か |
| 2 | 早期診断 | プライマリケア・地域での早期診断や支援を改善する最も効果的な方法は何か |
| 3 | 治療 | 免疫療法・フードラダー・薬物療法など、最も安全で効果的な治療法は何か |
| 4 | 原因 | 発症リスクを高める要因、悪化・寛解に影響する要因は何か |
| 5 | 外食 | 外食・カフェ利用をより安全でインクルーシブにする方法は何か |
| 6 | 保育・学校での安全 | 保育園・学校が子どもと家族を支える最も効果的な方法は何か |
| 7 | 生活への影響 | 食物アレルギーが子どもと家族の生活にどう影響するか(摂食障害・成長・QOL等) |
| 8 | 緊急時対応 | アナフィラキシーの緊急時対応(アドレナリン自己注射薬の認知・入手・使用)をどう改善するか |
| 9 | 啓発 | 医療従事者・保護者に対するアレルギー啓発・教育をどう改善するか |
| 10 | 食事療法 | 経口免疫療法など、脱感作・耐性獲得を目的とした食事介入の最適な進め方は何か |
(出典:University of Bristol、2026年7月6日発表資料をもとに要約)
「治療法の発見」より「早期診断」「外食の安全性」が上位に
順位を見ると、新しい治療薬の開発(3位・10位)だけでなく、プライマリケアでの早期診断(2位)や、外食・学校生活における日常的な安全確保(5位・6位)、緊急時のアドレナリン自己注射薬の認知・普及(8位)といった、日々の生活に直結するテーマが上位に含まれているのが特徴です。CAESARのディレクターを務めるMatthew Ridd教授は、この優先順位づけについて「患者・家族・医療従事者にとって本当に重要なことに、研究者と研究資金の助成機関の目を向けさせるもの」と説明しています。この結果はすでに、Natasha’s Foundationが2026年に開始した1,000万ポンド規模の研究助成プログラム「Natasha’s Prize」の重点テーマ(妊娠期から2歳までの予防研究)の設定にも活用されています。
日本との比較:同様の「患者参加型」の優先順位づけはあるか
日本では、日本小児アレルギー学会やAMED(日本医療研究開発機構)の公的助成事業を通じて食物アレルギー研究が進められており、消費者庁・厚生労働省・国立成育医療研究センターなどが症例調査や表示制度の検討を行っています。しかし、英国のJLAのように「患者・家族・医療従事者が投票を通じて研究テーマそのものの優先順位を決める」という、当事者参加型で体系化されたプロセスは、今回確認した範囲では見当たりませんでした。研究の方向性は、行政の審議会や学会・研究者主導で決まることが多く、当事者の声は主にパブリックコメントやアンケート調査を通じて間接的に反映される形が中心です。
日本への示唆
今回英国で示されたトップ10のうち、「早期診断」「外食の安全性」「保育・学校での安全」「緊急時対応」は、いずれも日本の食物アレルギー児・家族にとっても切実なテーマです。既に触れたように研究費の配分の仕組みそのものが日米で異なる中、「何を研究すべきか」を当事者参加で決める仕組みづくりも、今後の検討課題となりうるでしょう。学校・保育施設での対応体制については、米国の研修義務化やネフィー(点鼻式アドレナリン)の動向とあわせて、引き続き注目する必要があります。
まとめ
英国では、James Lind Alliance方式による患者参加型の優先順位づけを通じて、子どもの食物アレルギー研究の「トップ10」テーマが2026年7月に公表されました。上位には新薬開発だけでなく、早期診断・外食の安全性・学校での対応・緊急時対応など、日常生活に直結する課題が並んでいます。日本には現時点で同様の体系立った当事者参加型プロセスは見当たらず、研究の方向性を当事者とともに決める仕組みづくりが今後の検討課題といえそうです。個々の予防・治療方針については自己判断せず、必ず医師・アレルギー専門医にご相談ください。
あわせて読みたい関連記事
- 【2026年最新】食物アレルギー研究、支える「お金」はどこから?|米FARE「Mind Meld」産学連携ファンドと日本AMED公的助成の違い
- 【2026年最新】卵の早期摂取「推奨後」もアレルギー減少せず|国立成育医療研究センターの分析と米国ピーナッツ対策との違い
- 【2026年最新】学校のアレルギー対応の新情報|米国研修義務化法・点鼻式アドレナリン「ネフィー」など注目トピックまとめ
関連商品
楽天市場で「食物アレルギー 家族向けガイドブック」を探す
楽天市場で「アレルギー表示 携帯カード」を探す
※本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的な診断・治療に代わるものではありません。食物アレルギーの診断・治療・除去食の実施については、必ず医師・専門医にご相談ください。
